2022/07/21 | 「我慢」→「辛抱」する力を | | by 校長 |
---|
空梅雨からの梅雨明け宣言後、戻り梅雨と言えるようなジメジメとした天候が続いています。そんな蒸し暑い日が続いていますが、一年生が育てている中庭のあさがおがひとときの涼感を届けてくれています。
本校では二十日の終業式を以て一学期が終わりとなりました。今学期は、入学式こそ参加者を制限した形のものとなりましたが、以降の行事についてはほぼ予定通り実施でき、学校の内外で子どもたちの笑顔や輝く瞳がたくさん見られた学期となりました。
この間、保護者や地域の皆様には波賀小学校の様々な教育活動にご協力いただきましたことに心より感謝を申し上げます。毎朝、子どもたちとともに安全に配慮しながら登校してくださる見守り隊や保護者の皆様、交通安全だけでなく地域の安全を守ってくださる各駐在所の警察官の方々、子どもたちが楽しみにして待っている読み聞かせの読書ボランティアの皆様、勉強をわかりやすく教えてくださる放課後チャレンジ塾の先生方、そして、様々な行事や校外学習にお力添えをいただいた地域の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。二学期も引き続きよろしくお願いします。
さて、話は変わりますが、ある看護師の方からこんな話を聞きました。
「今、新採用として入ってくる子を一人前の看護師に育てようと厳しく指導すると、我慢できず一年とたたず、すぐにやめてしまう。命を預かる仕事だから甘いことも言ってられないし・・・。」
今このような傾向はどの業種にもあるようです。一見いい子で元気、素直に育ったように見える子がちょっとした困難に耐えられず、すぐ泣き言を言ったり、逃げ出したり、それでも困難が回避されないと感情や行動を爆発させてしまったりすることが増えています。このような子どもの傾向は、幼少期にはそれほどはっきり表れなくても青年期を迎え社会に出る段階になって、もっと困った問題として顕在化してくるそうです。
この「辛抱する力」を幼少期に身に付けていくことが非常に大切であるということを、アメリカのスタンフォード大学が「マシュマロ理論」として立証しています。
これは四歳の子ども五百人を対象に行ったテストです。
まず、マシュマロを一つ子どもに与え、今食べてもよいことを伝えます。でも、そのマシュマロを十五分間食べずに辛抱できたらご褒美にもう一個増やし二個食べられることを伝え、部屋に一人だけにします。
その結果、すぐに食べてしまった子は少なかったのですが、最後まで食べずに辛抱できたのは三分の一ほどだったそうです。そして興味深いのは、その子どもたちの十五年後を追跡調査した結果です。辛抱できた子のほうが対人関係も良好で、かつ学力テストの平均も明らかに高かったそうです。また、すぐ食べた子はストレスがたまりやすく問題行動が多かったそうです。
本校においても、学校生活のあらゆる活動の中で、できるだけ子どもたちが辛抱をすることを学ぶ体験を大切にしています。
また、子どもたちの意識として「我慢させられている」のではなく、「自らの意思で辛抱している」と感じさせる事を大事にしています。辛抱する理由を教えたり、やりきった後にどんな良いことがあるのかを想像させたりすることで楽しく「待つ」体験を経験させます。我慢を苦痛と感じさせず、知らず知らずに辛抱する習慣がつくように仕掛けることも大切です。そしてなにより、辛抱できたことを笑顔でほめること、認めていくことが辛抱強い子を育てるポイントではないでしょうか。やはり子どもですから、いつもちゃんとできるとは限りません。長い目で根気強く、できたことをほめたり、うまくいかなければ一緒に残念がったりしながらその力を伸ばしていきたいものです。なかなか思うようにいかない子どもの成長に対して、大人がいかに辛抱できるか「大人の辛抱」が問われることになります。意外に本質はここにあり、「子どもの辛抱は、大人の辛抱によってこそ育てられる」と言えるかもしれません。
さて、ここまで我慢と辛抱という言葉が混在した文章となっていますが、実は意味合いによって使い分けています。どちらも耐えるということでは同じですが意味合いが違うことを知っている方は意外に少ないかもしれません。その違いですが「我慢」は嫌なことをただただ耐えることで、「辛抱」は好きなことや希望のために耐えることだそうです。
我慢という言葉には不満やわがままといった気持ちが含まれ、いずれ限界がきます。辛抱という言葉には希望や思いやりといった気持ちがあり、いずれ実っていくものです。このコロナ禍では耐えることを余儀なくされてきましたが、それを我慢ととらえるか辛抱ととらえるかによって気持ちの持ちようが変わったように思います。
いよいよ夏休みが始まります。自由な時間が増え、自分を律することが求められるこの期間こそ「辛抱する力」が大きく育つ時と言えます。「我慢」するのではなく「辛抱」できる人になれるよう、子どもだけでなく、周りの大人もいっしょになって汗をかいたり歯を食いしばったりする体験がたくさんできる夏になることを期待しています。 令和4年7月 髙井 和也