式辞
校庭の桜のつぼみの膨らみに、春の訪れを感じます。
この佳き日に、宍粟市教育委員会事務局部長様、PTA会長様、保護者のみなさま方のご臨席のもと、第三十三回卒業証書授与式が挙行できますこと、心より御礼申し上げます。
先ほど、卒業証書を手にした八十五名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。卒業に際し、激励の言葉を送ります。
「菊根分け あとは自分の土で咲け」
これは、小説家の吉川英治さんが、知り合いの方のお嬢さんの結婚式ではなむけに贈った言葉だそうです。菊は育てるのに大変手間がかかります。私も三十年ほど前に勤務していた中学校で、菊を育てた経験があります。その学校では、地域の名人に教えてもらいながら、毎年全校生徒が一鉢ずつ菊を育てていました。何種類かの土や肥料を混ぜて土を作るところから始まり、水やりや消毒、途中の植え替えなど、なかなか世話が大変でした。台風が来るときは鉢ごと屋内に避難させたこともありました。多くの手間が必要でしたが、大輪の花が咲いたときは大変うれしかったことを覚えています。
生徒や職員が行う世話はここまでだったのですが、花の盛りがすぎたあとに、名人は次の年のために「根分け」という作業をされていました。それは、大きく成長した株を小さく分けて、根元の風通しをよくしたり、肥料を施したりして、次の世代の花を咲かせるための準備です。
菊と同じで、人間の成長にも大変多くの支えが必要です。人間は生まれてきた時は何もできません。食事や排泄、入浴、着替えなど、すべてを親や家族に頼り、何事も周りの人に手伝ってもらって生活をしています。しかし、成長するにつれ、少しずつ自分の考えで行動できるようになり、中学生にもなってくると、自分はどのように生きていったらよいかということを考え始めます。そうなるために、毎日の授業や体験活動、部活動などで、独り立ちするために必要な「考える力」や「体力」、「豊かな心」を育てているのです。みなさんもそうやって仲間ととともに協力し合いながら、「生きていくために必要な力」を身に着けてきました。そして十五歳の春、立派に成長した皆さんが今ここにいます。もちろん、その陰には親や家族、先生、友のたくさんの支えがありました。しかし、卒業すると、これまで支えてくれていた人たちと別れなければなりません。まさしく、「根分け」のときを迎えたのです。
みなさんが踏み出す次のステージでは、自立に向けて新たな勉強が始まります。苦しいときに支えてくれた中学校時代の友や先生は、その時そばにいないでしょう。でも、必ず新たな出会いがあります。これまで培ってきた「生きる力」をもとに、新しい場所で新しい仲間とともに、さらに大きく成長していってほしいと思います。中学校から送り出す先生たちの今の気持ちは、まさに、「あとは自分の土で咲け」と祈るような心境なのです。
保護者の皆様、お子様はたくさんの経験から多くのことを学びました。このように心身ともに立派に成長され、本日ここに卒業の日を迎えられましたこと、心よりお祝い申し上げます。しかしまだまだ成長の途中です。これまで同様大きな愛情をもって支えてやってください。
最後になりますが、何年、あるいは何十年か先に、みなさんがしっかり大地に根を張って、見事な大輪の花を咲かせていることを祈念し、式辞といたします。
令和三年三月十日
宍粟市立山崎東学校
校長 志 水 良 和